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<title>綿花</title>
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<description>綿花は主に読んだ本の感想を日々綴るブログです。
毎日たくさん更新。なんて事は多分・・・というかほぼ無いと思いますが、のんびり気ままに、フラリと立ち寄ってもらえるようなブログにしていきたいです。
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<title>ソラチルサクハナ　　　　　薬屋探偵怪奇譚</title>
<description> リベザルが可愛すぎる。今、第二部０巻「ソラチルサクハナ」を読み終わりました・・・ので、勢いで久しぶりに感想を・・・もうだって趣旨違っちゃってきてるしね。感想のブログじゃないしね。あ、微量ですがネタばれ注意ソラチルサクハナ―薬屋探偵怪奇譚 (講談社ノベルス)(2007/08)高里 椎奈商品詳細を見る秋と座木が彼の前から去り一人になったリベザルは、自らにルールを課しました。笑わない・怒らない・驚かない――――それは、以
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<![CDATA[ リベザルが可愛すぎる。<br />今、第二部０巻「ソラチルサクハナ」を読み終わりました・・・<br />ので、勢いで久しぶりに感想を・・・<br />もうだって趣旨違っちゃってきてるしね。感想のブログじゃないしね。<br />あ、微量ですがネタばれ注意<br /><table style="width:75%;border:0;" border="0"><tr><td style="border:none;" valign="top" align="center"><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4061825410/fc2blog-22/ref=nosim/" target="_blank"><img src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/41sNZrKscSL._SL160_.jpg" alt="ソラチルサクハナ― 薬屋探偵怪奇譚(講談社ノベルス)" border="0"></a></td><td style="padding:0 0.4em;border:0;" valign="top"><a href="http://blog.fc2.com/goods/4061825410/fc2blog-22" target="_blank">ソラチルサクハナ―薬屋探偵怪奇譚 (講談社ノベルス)</a><br />(2007/08)<br />高里 椎奈<br /><br /><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4061825410/fc2blog-22/ref=nosim/" target="_blank">商品詳細を見る</a></td></tr></table><br />秋と座木が彼の前から去り一人になったリベザルは、自らにルールを課しました。<br />笑わない・怒らない・驚かない――――それは、以前のリベザルを否定すること、彼が変わることを前提としたルール。<br />憧れて止まない、師のようになるために。<br />一人で生きていくことを決め、それでも己の力のなさに苦しむ。<br />そんな彼に事件を依頼してきたのは桐。スリを働いていた彼の周りは、盗んだ女性の財布から出てきた謎のお札を手にした時から、奇怪な出来事が起こり始めていた。<br />そして捜査に乗り出したリベザルの前に、それは落ちてきた。<br />共にスリを働いていた同僚が墜落死したのだ。<br />彼は何故死んだのか？そして、次々と起こる事件は妖怪の仕業なのだろうか？<br /><br />て感じ、です。<br />変わってしまったリベザルをみているのは辛い、かといえばそうでもなく。<br />むしろ変わらなければおかしい気がします。<br />そうして私の目には必然的に見えるリベザルの変化は、これまた予想通り、ある人物の登場で揺らぎ始めるわけですが、なんだろう。<br />今回はリベザルが主役。ということで、視点も彼がほとんどです。<br />それ故か、はたまた秋がいないからか、第一部のような読んでいて妙に軽快な言葉のやりとりや諺・故事成語などは少ないですが、新しい薬屋の形、もしくはそれがまた以前の形に戻っていくのか、実に気になるところです。<br />でも、気になるのが柚ノ介・・・彼は何処に行ったんでしょう。<br />リベザルの言葉から、彼が七年間に彼を知る人間と接触していないのは読み取れますが、ではほかの妖怪は・・・？<br />現在第二部は３巻まで出ていて、３巻には高里先生の感謝祭の応募券が付いています＾＾<br />私的には、第１部から読むことをお勧めしますが、実は私、薬屋ははじめの方はいまいちハマりきれなかった感があり・・・実は「双樹に赤、鴉の暗」から最近買い始めたばかりです・・・<br />今読みなおせばまた違ったものが見られる気もしますが、まだ少し怖くて見れていません。<br />ので、そうだなあ・・・<br />気になる方は、まずは第１部の一巻を買って読んでみることをお勧めします。<br />でも長いんだよなあ・・・それに私、王道ファンタジーのほうが・・・て方にはフェンネル大陸偽王伝をおすすめです！<br />最近は高里先生の本しか読んでいないので・・・他は、えーとえーと・・・読んでないなあ。<br />薬屋を全部集め終えたら、もっと様々な作者さんの本も読み、高里先生の本ももちろん読み、な生活を送りたいですね。<br />受験だけど。<br />そういえば、沙漠シリーズの新刊もでているし。次でクライマックスだそうです。早いなあ・・・<br />フェンネルも残り２冊ですか。寂しいな・・・<br />と。へこんでても仕方ありませんし、明日早速２・３巻同時に買ってきちゃおうかな、なんて。<br />私なんて、別に読む速さが早いわけでも、１年に何百冊も読める開けではないですけど、それでも、本が好きって言うのは堂々と言えます。<br />たとえＯＮＥＰＩＥＣＥが大好きでも、アニメも声優もすきでも、時折ゲームにはまってみたりなんかしても、最後には本があって、それが好きです。<br />一生の相棒ですね、本は。<br />さて、お昼御飯食べるか。←偏った休日の過ごし方<br /> ]]>
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<dc:subject>おススメ本</dc:subject>
<dc:date>2009-11-21T13:34:10+09:00</dc:date>
<dc:creator>　　采奈</dc:creator>
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<title>にんじん</title>
<description> おなかが痛いです・・・すごい久しぶりの更新の第一声がこれなのは正直自分でもどうかと思うんですけど、だって痛いんだもん・・・おなかが痛い。なんか壊しぎみです・・・周囲には勉強のストレスによる精神的な不調と捉えられておりますが、多分違う。だってテスト終ったのに痛いもん。じゃあ疲労？・・・たぶんそれ。最近イライラする。いや、あさこじゃないよ？←皆に突っ込まれていい加減疲れた采奈の八つあたりは結構ねちっこ
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<![CDATA[ おなかが痛いです・・・<br /><br />すごい久しぶりの更新の第一声がこれなのは正直自分でもどうかと思うんですけど、だって痛いんだもん・・・<br />おなかが痛い。なんか壊しぎみです・・・<br />周囲には勉強のストレスによる精神的な不調と捉えられておりますが、多分違う。<br />だってテスト終ったのに痛いもん。じゃあ疲労？・・・たぶんそれ。<br /><br />最近イライラする。いや、あさこじゃないよ？←皆に突っ込まれていい加減疲れた<br />采奈の八つあたりは結構ねちっこいと自分でも思う。<br />だってじゃないとスッキリしないんだもーん<br />相手に分かりにくい単語を使うのが一番好きかな。それか、屁理屈を押し通しての八つあたりか。<br />私思うんですけど、屁理屈ってなにが屁なんですかね？<br />屁のつく理屈に負けるような理屈引っ提げてんのが悪いんじゃない？<br />と思う。<br /><br />ときどき自分でもびっくりするくらい強引かつ不条理なセリフを吐いてる気がする。<br />他人への嫉妬も苛立ちも、なくなることはないんじゃないかなあ・・・<br />一番大事なのは、自分好きか、な気がする。<br />他人を好きだろうが嫌いだろうが、その前に自分好きかどうかくらい知っときたいよね。<br />私は嫌い。<br />嫌なところが多すぎて、自分の認める良い部分っていうのかな。そういう部分まで負に変わってく。<br />どんどん自分は変わるのに、前みたいに素直でも、純粋でも、綺麗でもない。<br />ただ人間って何？って思う。<br />にんげん。<br />にんじんは味を主張するんだって。<br />友達が言ってた。<br />にんげんもするよね。わたしもしてる。<br />頑張ったら認めてもらいたい。凄い、て言われたい。<br />良いことしたら、良い人だって言われたい。<br />人にやさしくしたらやさしい人だって言われたい。<br />一緒だって、だから一人じゃないって、言って欲しい。<br />ずっと自分でしてきました。<br />親は私をほめるけど、うれしくない。ずっと何か違うって思ってた。<br />テストの点じゃない。通知表じゃない。英語じゃないし、国語でもない。それじゃない。<br />だから自分でしてた。親はほめる以外しないから。自分で自分を怒って、励まして、そうしたら、自分がものの見事に嫌いになってた。<br />思ったことは言わなきゃ駄目だ。きっと。<br />いくつになっても、人は寂しいよ。<br />思ってたって届かない。漫画のように、文字にはなってくれない。空気を通しては伝わらない。<br />空気の波が届けるのは声だ。想いじゃない。<br /><br /><br />私が言われたいだけ。<br />それだけの独り言。<br />にんじんは味を主張する。<br />カレーに紛れても、シチューに紛れても。<br />ここにいるよ。だから見て。<br />そう言ってるんじゃない？<br />だれだって、きっとさびしい。にんじんも、タマネギもね。 ]]>
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<dc:subject>今日の呟き</dc:subject>
<dc:date>2009-11-16T19:37:34+09:00</dc:date>
<dc:creator>　　采奈</dc:creator>
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<title>らんらんるー</title>
<description> 十一月になってしまった。受験まであと・・・よよ４カ月ですか、そうですか。今日寝ぼけた頭でＯＮＥPIECE見てたら「特別特典・ＯＮＥPIECE０巻！」ってうぇぇぇぇまじかよ！て目が覚めました。ほしい！ほしいよそれ！ていうかえ、今日兄にジャンプの展開をちょっぴ教えてもらったらうええ、蛇姫様にスモーカー大佐がうえええ！？←しつこい蛇姫えええ頼むから大佐は倒さないでえええあ、今は准将か。言いにくいんだよね、スモーカ
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<![CDATA[ 十一月になってしまった。<br />受験まであと・・・よよ４カ月ですか、そうですか。<br />今日寝ぼけた頭でＯＮＥPIECE見てたら「特別特典・ＯＮＥPIECE０巻！」<br />ってうぇぇぇぇまじかよ！<br />て目が覚めました。<br />ほしい！ほしいよそれ！<br />ていうかえ、今日兄にジャンプの展開をちょっぴ教えてもらったらうええ、蛇姫様にスモーカー大佐がうえええ！？←しつこい<br />蛇姫えええ頼むから大佐は倒さないでえええ<br />あ、今は准将か。言いにくいんだよね、スモーカー准将ってさ。<br /><br />最近銀魂に浮気中な采奈もＯＮＥPIECEの熱さに再び燃え上がりそうです・・・っ<br />いや、銀魂も好きですけどね＾＾　両方両方。<br /><br />そういえば銀魂も映画化？ですよね。<br />チ、紅桜か・・・という私は動乱編派です。<br />もうね、熱くって！そして泣ける…涙が、勝手に！<br />でも　なんだかんだ銀魂ファンは長編が嫌いって人も多いようです。<br />なんでだろう？<br />あと、銀魂は駄目人間に優しいとか。うーん・・・<br />あと字が多い、ていうのは本当によく聞くなあ・・・小説と漫画以外にお金は使いません！な采奈は字が多い方がむしろ喜ばしい所なんですが、どーんがーんばしゃあああんな漫画が大好きな兄にはキツイようです。途中で挫折はやめてほしいなあ・・・だって凄い良い話なんだもん！<br /><br />今日ドラマの仁見てたら吉原が出てきました。<br />なんか漫画のまんまな建物だったのでびっくり。<br />あと、出てきた女の人が「あちき」「～でありんす」「～しておくれなんし」<br />とかって言ってた！月詠とハードボイルドの時の女の子(名前忘れた）を思い出してなんか面白かったです＾＾<br />来週も吉原が舞台みたい。ドラマも普通に面白くてびっくり。<br />さーて、明日も勉強頑張るかあっ<br /><br />あ、えーと、これからまたテストが二つ続くので、１１月１６日まで更新がまばらになると思います。<br />頑張って勉強して、周りを見返してやるつもりです。<br />ぽっきり折られた私のプライド、ちょっと奪い返してきます！！ ]]>
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<dc:subject>今日の呟き</dc:subject>
<dc:date>2009-11-01T22:58:21+09:00</dc:date>
<dc:creator>　　采奈</dc:creator>
<dc:publisher>FC2-BLOG</dc:publisher>
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<title>名もない僕と、だいだい色の花の君　第８話</title>
<description> 「どうして何も言わなかったの！」　陽は落ち、空に星が瞬く夜。　アルムハーデから進路を「西の塔」にとった山道。　彼らは無事にアルムハーデを出て、今日はすぐに休むことになった。　あたりの闇を映して尚光を失わない橙の目が、リンバーソンの闇に紛れた瞳を見据えて離さない。「後でって言ってたじゃない。どうしてタツナさんやあの男に言わなかったの？　一人で解決できるようなことではないでしょう」　眉間にしわを寄せて
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<![CDATA[ 「どうして何も言わなかったの！」<br />　陽は落ち、空に星が瞬く夜。<br />　アルムハーデから進路を「西の塔」にとった山道。<br />　彼らは無事にアルムハーデを出て、今日はすぐに休むことになった。<br />　あたりの闇を映して尚光を失わない橙の目が、リンバーソンの闇に紛れた瞳を見据えて離さない。<br />「後でって言ってたじゃない。どうしてタツナさんやあの男に言わなかったの？　一人で解決できるようなことではないでしょう」<br />　眉間にしわを寄せて、ソニアがその威勢のよさにたじろいだリンバーソンの頬をめいっぱいつねりあげると、彼は困ったようにつねられていない方の頬だけを笑みの形にして、悪びれる様子もなくソニアを見た。<br />「分かってる。でもほら、皆疲れていただろう？　今日のところは一先ず、と思って」<br />　呑気な笑顔でソニアをなだめにかかるリンバーソンに、<br />「言いなさい」<br />　ソニアの声が僅かに揺らいで、怒りでもなければ呆れでもない、痛みのような、形容しがたい感情が<br />彼女の顔に浮かんだ気がした。<br />「え？」<br />　言葉に対する疑問と、彼女の悲痛な表情に対しての疑問。どちらの意も兼ね揃えた科白で首をかしげた。彼女が何故こんな顔をするのか分からない。<br />「考えがあるんでしょう？　言いなさい」<br />「別に何も、俺はただ・・・」<br />「言わないなら私が先に言う！」<br />　ソニアは唇をきつく噛んで、ひきつる頬に右手で触れると、さっと顔をあげてリンバーソンを睨みつけた。<br />「あの子・・・見たことある」<br />「赤い髪の・・・？」<br />　咄嗟に言葉が出た。急かすように彼女から視線を離すことが出来なくなって、リンバーソンは握った拳の指の腹に爪を立てて平静を取り繕った。<br />「シィファ・モルデニツア。　アールハブレーン、キルモ二ー、代々圧倒的な学と知識、情報を受け継ぐ両家に続く名門貴族の末娘」<br />　澄んだ声が静まり返る辺りにこだまして、息をのむのも憚れるような静寂を呼んだ。<br />　リンバーソンは頭の中で何度も彼女の言葉を反芻して、漸く繋がった事実に愕然とした。<br />「な・・・っ、モルデニツアは今、ブルッジアと同等か、それ以上に政府に信頼を置く貴族だろう。その末娘が、あろうことかレイガラの一員だなんて。　それに・・・そうだ、どうして政府はそれを知らない？赤い髪など、大陸でも稀だ。その存在に気づかないことなんて・・・」<br />　声が力を無くして、ついには何も言えなくなる。<br />　レイガラ。赤い髪。モルデニツア。名門。キジク。<br />　沢山の重要単語が、言葉の意味を成さないかのようにあやふやで、ただただ頭を駆け巡っていた。<br />　けれどもソニアは落ち着き払っていて、リンバーソンの動揺が何だか大仰にも思えてくる。<br />　彼女が何を知るのだろうか。何を知って、何を思い、何をしようとしているのか。<br />　混乱の収まらない頭に、またひとつ、鉛のように重たい混乱の渦が巻き上がった。<br />「恨んでいるのが王家だから、じゃない？」<br />「どういう・・・」<br />「今、この世界は『国』という区分を持っていない。　名の独占権の及ぶ範囲だったのか否かは知らないけれど、それを決めたのは王家。　世界は王家を中心に動いている。そして、ここまで王家が絶対とならなかった時代、まだ世界に『国』があった頃、それらを治めていたのは各国の権力者の集まり――――すなわち政府。今は政府は弱体化の一途をたどり、王家に飼われる番犬となっている。そして貴方達も、その番犬の足となり働く物」<br />　リンバーソンのワインレッドの瞳が、ソニアの言葉に呼応するように揺らいだ。<br />「私はレイガラの過去を知ってる。アルムハーデの真実と、横暴な王家の所業。　モルデニツアの――――シィファの怒り」<br />　ソニアはそこでふと瞳の力を無くして、深く俯いた。<br />「皆・・・あれのせいなの」<br />　リンバーソンには、その言葉の意味を理解することが出来なかった。<br /><br /><br /><br /><br />　名無しの彼は地図を片手に皆より遅い夕食を口にするタツナの隣に座って、ぼんやりと星を眺めていた。<br />　暫く前にリンバーソンを半ば強引に連れだって散歩に出かけたソニアはまだ帰らない。<br />　タニシャやジク、他の仲間達は今は夢の中だ。<br />「タツナさん」<br />「何だい」<br />「死ぬんじゃないかって、思ったことありますか？」<br />「ない奴なんかいないだろうな。俺も、ありすぎて何度かなんて分からないから」<br />「怖くないんですか？」<br />「・・・なんで？」<br />　尋ねた名無しの彼にタツナもまた同じように疑問を浮かべた顔で彼を見て、二人は互いの間抜けな顔に笑いあった。<br />「僕が怖かったから、デス」<br />　片言のように妙に自信のない言葉を吐くと、余計に分からなくなってきた。<br />　消える粉に対しての疑問も、消えることへの恐怖も、生きて見たいと思う気持ちも、まるで自分のものではないみたいに薄っぺらくて、誰かに違うと断言されたら、それもそうだと言いかねない。<br />　自分に自信が持てなかった。訳が分からなくなって、そういうとき、消えたいと思ってしまう自分に腹が立って、吐き気がして、今日は眠れる気がしない。<br />　顔をうつむけた彼に、タツナは空になったスープの皿を置いて、徐に立ち上がると広い夜空を見上げて大きく伸びをした。<br />「生きてるのって、辛いと思う？」<br />「・・・はい」<br />「じゃあ死ぬのは？　辛い？」<br />「・・・・・・」<br />「俺はどっちも辛いな」<br />　迷い瞳を空へ泳がせた名無しの彼を真っすぐに見て、タツナは二ィ、と笑って腕を組んだ。<br />「全部辛いんじゃねーかな。　だったらさあ、自分が消えてなくなるか、明日にかけるか。　なあんも怖くないさ。だって全部が苦しいんだから。　逃げたっていいし、逆に戦ったって構わない。大切なのはさ、逃げようが逃げまいが自分の本当に大事なもの、人じゃない、自分だけのもの。守って立って歩けるかだろう」<br />　それで歩いた道が間違っていようが、正しかろうが、しゃあない、そんときは笑ってやれ。大馬鹿野郎だ、俺はって。<br />　タツナは歌うように言って、<br />「俺も、折角頼りがいがあって折り目正しいお兄さんしてたのになあ。結局タニシャと同じか。ハハ、せめて君といた女の子にはお兄さんと思っててもらいたい。　名無しくん、今の内緒ね」<br />　急に荒くなった言葉を元に戻して、彼はまた二ィ、と笑った。<br /><br /><br /><br /><br /><br />　ソニアが帰ってこない。<br />　タツナも暫くして馬車へと入っていき、取り残されたように馬車の背に寄り掛かり船をこいでいた名無しの彼は、憔悴の表情で戻ってきたリンバーソンの隣にソニアの姿がないことに気づいて、彼に駆け寄った。<br />「え、帰ってきてないの？　俺より先に戻ったはずだけど・・・」<br />　何処か虚ろな瞳がゆるゆると辺りを行き来して、困ったように眉根をよせる。<br />「また一人で勝手に・・・、僕探してきます」<br />「あ、俺も」<br />「リンバーソンさんはもう休んでください。　すみません、ソニアが連れまわしちゃって」<br />　後ろでリンバーソンの引きとめる呈の声が聞こえた気がしたが、憔悴しきったあんな顔を見せられて、厚意に甘えられるほど馬鹿ではない。<br />　しばらくリンバーソンが来た道を走っていくと、気づけばもう辺りは薄明るい。<br />　もしかしたら、ソニアはリンバーソンとは違う道を歩いて、とっくに馬車へと戻っているかもしれない。<br />　そう思いだした時だ。<br />　前方にぼんやりとだが人の姿を捉えて駆け寄ると、案の定、ソニアが立っている。<br />「ソニア・・・」<br />　彼女は靴を両手に持って、足に巻いているはずの包帯を腕にかけ、月に忌々しい家紋をさらしてその光を一心に見詰めている。<br />「心配した。・・・帰ろう」<br />　彼女の手から靴をとって、彼女の足元に置いた。<br />「アヴィ」<br />「うん？」<br />「・・・消えたい？」<br />「消えたくない」<br />「ならいい」<br />　それってどういう・・・と顔を上げようとして、靴を置くために屈んでいた体にずっしりと重いものがかぶさる。<br />「重た・・・何、これ。木？」<br />「薪用。重くて困ってたの。丁度良かった」<br />「・・・そう」<br />　背に乗った太く丈夫な丸太を下して脇に抱えると、彼女を急かして馬車へ向かう道なき道をいく。<br />「間に合わないかもしれない」<br />　そう彼女が言ったのは、もうすっかり光が闇を呑み込んで、小鳥が囀るときだった。<br />「馬車ならもうすぐだ。　別に迷惑には・・・」<br />「間に合わない。私は・・・止められない」<br />「何？　ソニア、どうした――――」<br />「アヴィ、世界が動くよ。その渦中に私たちもいる。もう逃げられない。戦うしか、ないの・・・」<br />　政府は王家に叛く蛮行を犯したレイガラと繋がっている。<br />　王家はかつて、世界から名を奪った。<br />　歪んだ世界も、醜い人も、皆壊れてしまうかもしれない。<br />　ソニアは言って、震えの止まらない体を両手で抱き締めて、恐怖に歪む顔を深くうつむけた。<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br />　シィファ・モルデニツアはある屋敷に招かれていた。<br />　貴族として名高い家計に名を連ねた彼女はけれど、貴族のそれとはずいぶん違う気品の欠片もない態度で椅子に腰かけて、侍女が運んできた料理に顔を顰め、大きく舌打ちした。<br />「ちょっと、何回言えば分かるんだっての。あたしは鶏は食べないの！　ああ、見るだけで虫唾が走る。あんた、黙って見てないでとっとと捨てなさい、こんな気色の悪いもの」<br />　横柄な彼女の態度に侍女が肩を震わせて戸口を窺った。その視線の先にいた男は、長いテーブルの端の席につくとくつくつと笑い声をたてた。<br />「ダズ、あんたも分かっててやってるんでしょう？　本当、いくつになっても心は餓鬼ねあんた」<br />　容赦のないシィファの言葉に、しかしダズと呼ばれた男は眉一つ動かさない。<br />　シィファはむ、と唸ると、徐に立ち上がって――――お行儀の悪いことに、テーブルの上に、土足で、だ――――手にしていたフォークを突然男めがけて数本放った。<br />　刹那、風が吹き、男を狙って放たれた凶器が男の鼻のすぐ手前で弾かれて、侍女が開けた扉に突き刺さる。<br />　侍女の悲鳴と、シィファの目の前に刃が一瞬で迫ったのは同時だった。<br />　体を反らして刃を避け、相手の油断した鳩尾に蹴打を放つ。<br />　背後から剣を振りかぶった影に足で端を踏み反動で空中へ投げた机上のナイフを掴んで振り向きざまに突き刺す。<br />　続いて下から足を狙って伸びた腕を尖ったブーツの踵で踏みつけて、怯んだところを蹴りあげる。<br />　前から飛びかかる影にテーブルに手をついて足を振りあげる反動を利用して壁際まで吹き飛ばし、次の一人は頭を石でできた床にめり込ませる。<br />　最後の一人はこちらから出向いて、命乞いをする声にけれど何の躊躇いもなく喉をフォークで掻っ切った。<br />　断末魔の悲鳴が屋敷に轟いた。<br />　血が、純白のテーブルクロスを朱に染めあげている。<br />　美しい館の広間は、一瞬で血に溢れる戦場と化している。<br />「ばぁか。　あたしに敵うわけがないでしょう？」<br />「やはり、君を越す人材というのはなかなか仕上がらない」<br />　男は血だらけの部屋を満足げに眺めて笑みを浮かべる。<br />「ダズ、この次あたしを試すような真似したら、今度はあんたの首にフォークを突き刺してやるから」<br />　殺気づいた彼女に、けれどやはり動じることはなく、男は緩慢な動作で頬杖をついた。<br />「なあに、ちょっとした遊びだ。　私はね、暇なんだ。暇で仕方ない」<br />「あんた、確かこないだはいい遊び道具が見つかったって――――」<br />「逃げ出したんだ、困った玩具だ」<br />「それをあたしに探せって？　旦那、これ以上あたしをナメるとどうなるか・・・」<br />「あれを知ってしまったんだ」<br />「！　あんた何やってんの！？もしそれのせいで計画がうまくいかなくなったらっ」<br />「だからお前に頼んでいるんだ」<br />　シィファは苛立ちと焦りと怒りで血に濡れた手を震わせた。男の落ち着き払った態度が癇に障る。<br />「・・・あたしがいつまでも素直にあんたの言うこと聞くなんて思うな」<br />　シィファは血のついた頬を手の甲で乱暴に拭って、床に飛び降りる。<br />　冷めたように興味の欠片もないような目で男を見て――――<br />「計画のためってんならやる。殺していいんでしょう？」<br />「次を探すのか。それもまたいい暇つぶしだ」<br />「目だけくり抜いてきてやるから。ああでも、珍しい色じゃなきゃつまんない。何色？その玩具の目」<br />　男はニヤと笑って、<br />「橙だ」<br />「それはやりがいがある」<br />　シィファは置き土産、と血のついたナイフを目の前の鶏肉に突き刺して、悠々と歩いて屋敷を出た。<br />　楽しい舞踏会は始まったばかり。<br />　まずは誰と踊ろうか。<br />　シィファはまだ、自分の顔に血が付いていることに気づいて顔をしかめた。<br />　拭ったはずの血は、血のついた手では拭えない。<br />　けれど彼女は楽しげに、高く結った髪を揺らして歩いた。 ]]>
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<dc:subject>小説（・・・？）</dc:subject>
<dc:date>2009-10-31T13:37:14+09:00</dc:date>
<dc:creator>　　采奈</dc:creator>
<dc:publisher>FC2-BLOG</dc:publisher>
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<title>名もない僕と、橙色の花の君　７話　後</title>
<description> 　勢いよく幌から飛び出て、名もない彼は御者台へ出た。 　途端に広がる言いようのない空気に息が詰まりかけて、腹に力を込めてなんとか息を整える。 　力で脅し、奪う。 　彼らのような人間、ナズナには溢れるように居た。 　当たり前の光景だった。当たり前に居て、何も怖くはなかった。 　けれど今は彼らがこわくて仕方がない。 　剣を持ち、奪うことに慣れた人間。血のにおい。誰かの咆哮。 　思わず座りこみそうになった彼に
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<![CDATA[ 　勢いよく幌から飛び出て、名もない彼は御者台へ出た。 <br />　途端に広がる言いようのない空気に息が詰まりかけて、腹に力を込めてなんとか息を整える。 <br />　力で脅し、奪う。 <br />　彼らのような人間、ナズナには溢れるように居た。 <br />　当たり前の光景だった。当たり前に居て、何も怖くはなかった。 <br />　けれど今は彼らがこわくて仕方がない。 <br />　剣を持ち、奪うことに慣れた人間。血のにおい。誰かの咆哮。 <br />　思わず座りこみそうになった彼に、 <br />「！　名無しくん・・・？　どうしたんだ、ここに居たら危ないから早く戻って――」 <br />　かすり傷を全身につけつつも、一人手綱を握るタツナが彼に気づいて声をあげた。 <br />　御者台に並行するように馬を駆けていたジクも、振りかぶられる刃を避けつつ、彼を見る。 <br />「作戦を伝えに来ました。　ジクさん、ここは僕が守ります。あなたは後方を守ってください」 <br />「しかし」 <br />「後方にはソニアやタニシャがいる。お願いです、守ってください」 <br />「・・・分かった」 <br />　彼の必死の様子に重々しく頷いて、ジクの姿が視界から消える。彼の指示通り後方に回ったようだ。 <br />　安堵する彼に、今度は訝しげなタツナの視線が刺さった。 <br />「どういうつもりだ？　作戦って、聞いてないけど」 <br />「ジクさん達は強いですか？」 <br />「？　当たり前だ」 <br />「ならいいんです。　ええと、彼らには数秒だけ、盗賊を全て足止めしてもらいます。その内に――突っ切ってください」 <br />　言ってるそばから刀が振りかざされる。咄嗟に避けると、タツナが片手で手綱、もう片方の手で剣をもち、相手を鎮めにかかる。 <br />「・・・悪いんだが、名無しくん」 <br />「はい」 <br />「その作戦なら、ついさっき決定事項としてもう仲間に伝えてある」 <br />「え・・・っ」 <br />　さすがだ。というよりも、これが普通なのだ。 <br />「その作戦、君が考えたのか？」 <br />「はい」 <br />「じゃ、君も戦力の一つとして数えさせて貰うかな」 <br />「構いません。・・・あ、あとタツナさん」 <br />「何だ」 <br />「タニシャは自分が守るから、安心して手綱を持てとソニアが」 <br />　タツナは一瞬固い表情をいつもの顔に戻して、彼を見て苦笑交じりの笑みを浮かべる。 <br />「有難う。　君は、良いのか？傍にいなくて」 <br />「はい。　乙女のする行動全般を、期待するなって言われましたから」 <br />　馬が嘶く。タツナが手綱を操る。ここに自分の居場所はあるのだろうか。 <br />　自分には剣もない。力もない。ここにいては駄目だ。返ってタツナの邪魔になる。 <br />「タツナさん、僕が合図します。それに合わせて川を渡ってください」 <br />　盗賊達は皆後方に引きつけられている今、自分が出来ることはそれしかない。 <br />「ならタニシャの所へ戻って、幌の隙間から見てくれるだけでいい」 <br />「いえ、こっちのじゃなくて」 <br />「まさか、荷車の方と言うのか」 <br />　タツナが勢いよく彼を振り返る。 <br />　無茶を言ったかな、と彼は苦笑して、けれど怯まず続けた。 <br />「こっちの馬車からじゃ後ろのが邪魔でよく見えないんです。向こうに移ります」 <br />　「東の塔」から「西の塔」へは、数十日間かかる。 <br />　それに備えた食糧、水、衣類は全て今彼らが乗る馬車の後ろに括りつけられた、荷だけを乗せた小さな馬車にある。 <br />　そこからならばきっと彼は間違うことなくタツナに、絶好のタイミングを伝えられるはずだ。 <br />「それは許可できない。君は何の鍛錬も受けていないし、まだ子供だ。ここから見てくれるだけでいい。だから無茶はするな」 <br />「危険なんてないです。それにタツナさんだって、そうした方が良いって分かっているんでしょう？　大丈夫です。僕は死ぬためにリーマの所へ行くんじゃない」 <br />　それまで厳しく向けられていたタツナの青い瞳が、ふっと陰り、揺らいだ。 <br />　彼もきっと不安なのだ。失うことが怖くない人はいない。 <br />　けれどと彼は思う。 <br />　守り通せなかったことを悔やむ想いも、僅かな迷いも、そんなものは後でいいのだ。 <br />　今は今、出来ることをする。ソニアに否定はされたものの、強ち間違ってはいないと彼は思っているとある武人の言葉だ。 <br />「許可はしない」 <br />　そう言って背を向けたタツナの背中に、彼は小さく笑いかけて、再び幌の中へ戻る。 <br />「――行ってきます」 <br />　タツナの頭に、それは妙に残った。 <br /><br /><br /><br /><br />「！　アヴィ、何かあったの？」 <br />　突然戻ってきた彼の姿を見咎めて、それまで外を窺っていたソニアが声をあげる。 <br />「いや、大丈夫。　僕はこれから後ろに行く。タツナさんに合図を出す」 <br />　焦りでつい早口になる。 <br />　タニシャが不安げに、ソニアの隣に立った。 <br />「タツナは・・・」 <br />「無事です。少し傷があったけど、全部かすり傷程度の軽傷だったから。　ジクさんが守ってくれていたんだ」 <br />「あの親父・・・」 <br />「うん。　ソニア、もう行く。他の人達が戦ってるんだ」 <br />「知ってる。私たちだって、ここで戦ってる。皆よ。仲間はずれは居ないんだから」 <br />　彼女の声に急きたてられるように中を抜ける。 <br />　外へ繋がる幌を乱暴にかき分けて、外へ出た。 <br />　途端に吹き荒れた風に髪が巻き上がる。 <br />　御者台とはまた違う空気。張り詰められた緊張感が漂っている。 <br />　幌の中や御者台では見えない者――戦う仲間と、剣を振るう盗賊。負傷し、溢れ出る血を片手で押える人間、顔を返り血で染めたような者もいる。後方を最早敵と仲間の区別もつかないほどに目まぐるしく馬が駆けて切りつけ合う姿が見える。 <br />　思わず硬直した彼は、我に返って自分の役目を思い出した。 <br />　目の前には、今乗っているものよりも僅かに小柄で御者台のない馬車が揺れている。 <br />　二つを繋ぐのは鎖。 <br />　そこを渡らなければならない。 <br />　足を伸ばして届かぬものかと身を乗り出した彼は、突然現れた男の姿に、反射的に身を引いた。 <br />　赤い髪を結い、嫌な笑みを浮かべた盗賊が剣を手に馬をこちらに近づけてくる。 <br />　見つかった。思ったよりもずっと早い。まだ乗り移ってもいない。 <br />「何だこいつ。　護衛じゃないのか？　つまらん、おい餓鬼そこをどけ」 <br />　無感動に彼を見て、男が彼の後ろ――荷台を指す。そこにはソニア達がいる。行かせられない。 <br />　急に動かなくなってしまった体に驚いて、けれど必死に首を振った。 <br />　動かないなら丁度いいではないか。もともと動く気なんてない。 <br />　じれったげに彼を見た男の後ろから数人、男を追ってやってくる人がある。 <br />「どうしたレダ」 <br />　仲間の一人らしい男が初めの男に面倒くさそうに聞くと、男もまた同じ顔をして、 <br />「こいつ変だ。なにかしようとしてた。　それにそこをどけといっても、嫌だと言いやがる」 <br />　皆一様にぞっとする笑みを浮かべてにじり寄る盗賊に、彼は動けない。 <br />　恐怖ではない。激しい嫌悪だ。 <br />　ナズナにはいなかった。ここまで腐り、歪んでいると一目でわかる人間。 <br />　ナズナにはいない。いなかった。だから―― <br />「！」 <br />　盗賊に囲まれ、体が硬直しどうすることもできないままで居た彼の視界が、急に広がった。 <br />　ジクとその横に、ワインレッドの髪の青年が彼の前に出る。 <br />　慌てて馬車から身を乗り出すと、横で崩れ落ちる盗賊達の姿が見えた。 <br />「あ・・・すみません、僕」 <br />　半ば放心状態で呟いた彼に、 <br />「大丈夫か。君、何してる。はやく荷台に戻ったほうが」 <br />　ワインレッドの髪の青年――リンバーソンが身を乗り出した。 <br />　ジクは相も変わらず黙ったままで、馬車に並行させて馬を走らせる。 <br />「・・・いえ大丈夫です。死ぬためじゃないから」 <br />　首を振って、リンバーソンには恐らく分からないであろうことを呟く。 <br />　人のことまで考えていられるような余裕はとうに失っている。 <br />「？　それ、どういう意味？」 <br />「何でもないです。助けてくれてありがとうございました。でも・・・僕にもまだ、やることがある」 <br />　かたい口調で言う彼に、 <br />「けど」とリンバーソンがジクを見た。ジクは僅かに眉を持ち上げて、 <br />「構うな、行くぞ」 <br />　とだけ言ってまた後方へ戻っていく。 <br />「え？　ちょっと、ジクさん！　・・・一人でいいの？」 <br />　リンバーソンはジクの背を追おうとして、けれど見捨てられず彼を見た。 <br />「はい。あの、後ろは、お願いします」 <br />「分かった。　頼むよ」 <br />　彼はすぐに手綱を引いて、ジクを追って馬を走らせた。 <br />　その瞳が不安で揺れるのを見た彼は、胸の痛みに顔をしかめた。 <br />「ごめん、リンバーソンさん」 <br />　呟いても、もう彼には届かない。 <br />　彼はもう一度心の中でリンバーソンに謝って、後ろの荷車へ目を向けた。 <br />「行こう」 <br />　怖くはないはずだった。けれど怖くないはずはなかったのだ。 <br />　思えば、ソニアと出会った時より自分が随分変わったんじゃないかと考えることが増えた気がする。 <br />　消えることを望んでいたはずなのに、消える粉に惹かれる気持ちは今もちゃんとあるのに、何故だろう。不安なのだ。 <br />　近づくたびに、不安なのだ。 <br />　先ほど盗賊の男たちに囲まれた時、死ぬんじゃないかと少し思った。 <br />　自分も含めた誰かが、死ぬんじゃないかと思った。それが無性に怖かった。 <br />「これ、生きたいってことなのかな。　ティラの居ない世界で、僕は生きたいのか・・・？」 <br />　こたえはまだ分からない。 <br />　だから今はとりあえず、生きていなければならない。 <br />　彼は先ほどと同じように足を伸ばし、届かないのを見ると、素早く僅かながらに距離をとって、荷台に向かって跳んだ。 <br />「！・・・った」 <br />　着地の際にバランスを崩し、床に体の右側を叩きつけた彼は、顔を顰めつつ立ち上がって馬車の扉を開く。木で出来た倉庫にも見えるそれは近くで見ると思った以上に古い。 <br />　ぎぃ、と今にも壊れそうな音とともに開いた扉の奥に進もうとして、突然激しい揺れに足をとられた彼は、今度は強かに腰を打って顔をゆがめた。 <br />「なん、だ・・・？」 <br />　慌てて小さく開けられた窓を覗こうとすると、とても近い位置に誰かの頭が見えて、思わず体を引く。 <br />「何なんだ」 <br />　呟く。 <br />　途端に答えに思いいって、彼は場違いに手を打った。 <br />「そうか、馬ごとぶつかって・・・」 <br />　男が起き上がるのが窓から見える。 <br />　気づかれないように物陰に隠れて、彼は息をひそめた。 <br />　何だか少し、調子が戻ってきた気がする。 <br />　あちこちからなる体の痛みのおかげかもしれない。 <br />　彼は遠ざかる男の姿を見送って、静かに動き出した。 <br /><br /><br /><br />　一方で、タツナが操る馬車の荷台に隠れるソニアは、幾度となく繰り返されるタニシャの問いにいい加減辟易していた。 <br />　もうなんだか場違いにも彼女を手に持つ鍋で叩いてやりたい。 <br />　そんなソニアの内なる葛藤を露ほども知らないタニシャは、馬車の揺れに足をとられながら、 <br />「あの、ソニアさんっ」 <br />「・・・アヴィは平気よ。タツナさんも、あの男も、皆。さっき自分でそう言ったじゃない」 <br />　何度めだろう、この問いは。指折り数えつつ彼女がおざなりに言うと、 <br />「でもあの、生きてるってだけで、傷があるとか、そういうのは全然分からないんです。ああどうしよう・・・」 <br />　鍋を持つ右手が疼く。強行しようとする己の右手を理性の左手が抑え込んで、ソニアは苛立ちに座りこんだ。仕方ないのは分かっているのだ。彼女も不安なのだ。そうして自分も。　 <br />　がたたた、と音がして、そこらに積まれた荷物が動く。 <br />　それと同時に震えるタニシャも巻き込まれるようにして転がってくるのを慌てて止めて、ソニアはこれまた何度目か知れない似合わぬため息をついた。 <br />「ちょっと、もう。気をつけてちょうだいタニシャ」 <br />　彼女に叱られたタニシャは体を丸めたままで答えない。 <br />「タニシャ？――タツナ」 <br />「！？　はいっ」 <br />「なんでタツナさんの名前で返事するのよ」 <br />「すみません、その、きになって・・・」 <br />「そんなに言うなら見に行ってくればいいじゃない、そんなに不安なら。幌の隙間から、チラ、とね」 <br />　意地の悪い笑みを浮かべて、我ながら底意地悪いことを言ったと思う。 <br />　けれどタニシャはめげる様子はなく、うつむけていた顔を徐にあげると、翳りのない笑みを浮かべてみせた。 <br />「邪魔になるから、いいです。私はここにいるのが一番役に立ってるんです」 <br />「そう？　私は邪魔よ、タニシャがここにいても」 <br />「う・・・」 <br />　冷たく突き放すソニアに、タニシャは金の髪を揺らして再びうつむいた。 <br />　その子供のような仕草に苛立ちを忘れて、ソニアはそれまで引き上げていた眉を下げて彼女の顔を覗き込んだ。 <br />　八つあたりの対象にしてしまったタニシャに申し訳ない気持ちがこみあげてくる。 <br />「嘘よ。居てくれて感謝してる。　一人じゃ私、絶対アヴィを追っかけていっちゃってたもん。　一人は、不安よね」 <br />「ソニアさんもそんなことおもうんですね」 <br />「思うわ、当然よ。ねえでもやっぱり私・・・タツナさんの所に行ってくる。状況が知りたいの。タニシャの読みだけじゃ分からないものもあるから」 <br />「でも、危険ですっ」 <br />「ここにいても危険。何処にいても危険。なら思い切り、自分のしたいことをするべきよ」 <br />　言って、立ち上がり不安げに見上げるタニシャの青い目に笑いかける。 <br />「ついでだから、タツナさんに愛してるの伝言でもしてきてあげましょうか？」 <br />「や・・・なにを仰いますか馬鹿！」 <br />「馬鹿はそっち。――行ってくる」 <br />　駆けだした。大丈夫、怖くない。きっと私は頑張れる。 <br />　呟いたら、勇気がでてきた。 <br />　名無しの彼も今戦っている。私も戦っている。彼にそう言った。 <br />　御者台へ――そして戦地へ。 <br />　ソニアは一歩、足を踏み出した。 <br /><br /><br />　同時刻、馬車を守るように並行して馬を走らせていたリンバーソンは、傾きつつある戦況に不安を感じていた。 <br />　やはり、馬車を庇っての戦いはきつい。初めはうまく後方に引きつけ優位に持ち込んだかと思えたが、後ろは後ろで前に行かせないためにしきりと辺りを見回さなければならない。 <br />　目の前の相手に集中することもままならない状況での戦いは、予想をはるかに超えた疲労を体に与えた。 <br />　走り抜け、すれ違いざまに相手を鎮める。 <br />　にじむ額の汗を拭った、その刹那。 <br />　一瞬後方からの攻撃に反応が遅れて、振り返った時にはもう刃が風を切り迫っている。 <br />　間に合わない。 <br />　と、視界が揺らいだ。 <br />　リンバーソンへと向けられた刃が形を変える。硬直した彼の頬のすぐ横に、鍛え抜かれた男の腕。 <br />　視線を腕から徐々にその先へと向ける。そこには、彼の命を狙い振りかぶられた剣を弾き、隙のない動きで相手を斬った見覚えのあるもろ刃の剣。 <br />「ジクさん・・・」 <br />　彼が自分を助けてくれたのだ。 <br />　今更押し寄せる恐怖と安堵。心臓がずぶりと動くような感覚で、早鐘をならしている。 <br />「咄嗟に動きにくい背中の死角を突いたか。無事か、リン」 <br />　一人動じず剣を引くジクが、上から下へ、値踏みのようにリンバーソンを一瞥する。 <br />「あの、ジクさん」 <br />「行くぞ」 <br />　彼はリンバーソンが何かを言う前に、素早く手綱を振って彼を置いて走り出す。 <br />　慌てて彼に倣った。 <br />　リンバーソンは並んで馬を走らせるジクを見て、それから剣をかざす仲間を、皆一様に赤い髪を揺らす盗賊達を見た。 <br />「あの、すみませんジクさん。油断していました」 <br />　悔やむように手綱を持つ手に力を入れたリンバーソンに、 <br />「気になるんだろう」 <br />「え」 <br />　ジクの突然の発言に一瞬思考が停止する。 <br />　すぐに答えに行きついて、リンバーソンは情けない顔で頷いた。 <br />「・・・はい」 <br />　彼はずっと不安だった。 <br />　荷車へ続く鎖を渡ろうとしていたあの少年――ソニアという少女がアヴィと呼んでいた――は無事だろうか。 <br />「巻き込んじゃいけなかった。俺・・・やっぱり」 <br />「こんな状況でもか」 <br />「震えてた。無理に彼がやることはないんだ。他にも」 <br />「他にも誰がいる？　俺か、それともタツナか、ここにいる仲間か」 <br />　リンバーソンは甘んじて彼の叱咤を受け入れようとして――ふとそこに、彼らしからぬ穴があることに気づいた。途端に光がさしたような感覚にうつむけていた顔を上げる。 <br />「・・・俺がいます」 <br />「なら早く行け。俺の部下に正直に俺の言うことを聞く奴なんか一人もいないってことはだれより知ってる」 <br />　彼にしてはお喋りな科白に笑いが漏れる。 <br />「はい。すみませんジクさん。馬車が無事に行ったのを見届けたら、すぐに」 <br />「いや。お前はそのまま行け」 <br />「！　何故ですか。そんな優位な状況じゃないでしょう」 <br />「タツナが怪我をしているかもしれない。あいつは、怪我を押してでも戦うやつだ。あいつ一人に任せていたら怪我では済まなくなるかもしれない」 <br />「・・・分かりました。タニシャ・シルヴィア殿の力を使えば、すぐにそちら側の居場所が見つけられるはず。必ず・・・必ず迎えに行きます！」 <br />　リンバーソンは、言うなり踵を返し、馬車へと馬を走らせた。 <br /><br /><br /><br />「タツナさんっ」 <br />　急ぎ足で御者台へと出たソニアは、手綱を握るタツナを見て声をあげた。 <br />　彼の左腕から、血がにじみ出ている。<br />「君たちは揃いもそろって・・・早くタニシャの所に戻ってくれ。君を庇って戦えるほどの余裕は生憎持ち合わせていないんだ」 <br />　苦しそうに顔をゆがめながら、強い口調で彼がソニアを追いたてる。 <br />　ソニアは怯むことなく、タツナの左腕をスカートの裾を破った布で押えた。 <br />　傷を負った腕に巻きつけて、きつく縛りあげる。 <br />　純白はすぐに朱に染まった。 <br />「状況を確認しに来たの。荷台からじゃ何も分からないから・・・」 <br />「状況か。芳しくないさ。むしろ悪化する一方だ。早くここを抜けて、仲間に余計な苦労はかけたくないんだが」 <br />「アヴィがさっき、後ろに行ったわ。すぐに合図をくれるはず。でも・・・私やっぱり、アヴィの所に行ってくる」 <br />　ソニアは言うなり立ち上がって、踵を返そうとする。 <br />　その華奢な背中に固いタツナの声が突き刺さった。 <br />「駄目だ行かせられない」 <br />　不安だからこその言葉。心配だからこその声。 <br />　その重さに、思わず足をとめた。 <br />「君たちは荷台に居てもいい人間なんだ。怖い思いをしなくてもいい。怖いものが終わるまで、隠れて震えていても良い存在なんだ。　無理をしてはいけない。ここにいていい」 <br />　タツナが諭すように声を和らげてソニアの足を麻痺させる。 <br />　動かない足。後ろ髪を引かれるような罪悪感と、認めたくない恐怖。 <br />　背中に刺さる言葉の矢は、こうも力を抜いていくのか。 <br />　膝はこうも震えるか。 <br />　ソニアは緩慢な動作で体をタツナへと向けて、それでも曲げない意志と気力で力強く笑った。 <br />「どこにいても怖いのよ。守られてることが怖い人間も、あなたのすぐそばにいるんじゃない？」 <br />「・・・君は怖くないのか」 <br />　今度は背中ではなく、直に胸へと突き刺さる。懐かしい、名無しの彼や父から感じるような暖かくけれど何処か悲しくて、時に重い気持ち。 <br />　震えていていい。戦わなくていい。ソニアが邪とする弱さが、タツナの放った言葉の矢から毒として沁み渡る。 <br />　それら全てを受け止めて、やっぱり彼女は笑うのだ。 <br />「だから怖いってば。全部が全部怖い。一人も、暗闇も、戦も、力も全部。怖いから戦うのよ。自分が安心して笑うために、私は戦うの。違う？」 <br />　豊かに波打つ黒髪に深く神秘的なざくろの色の瞳。勝気な笑み。 <br />　タツナは目の前で腰に手を当てて仁王立つソニアに何処か懐かしい友の姿を重ね見て、呆れたような笑みで、本日二度目の言葉を背中で聞いた。 <br />「行ってきます！」 <br />　元気で明るい、まるっきり少女じみた挨拶だった。 <br /><br /><br /><br />　名無しの彼は、荷車の窓から外の様子を眺めて、うまく敵と馬車とが距離を置き、加速しだした馬にすぐに敵が追いつくことのないようなベストな一瞬をつくために意識全てを外に向けて、ただただ揺れ動く戦況を見守っていた。 <br />　やはり馬車を庇っての戦いは厳しいようだった。 <br />　状況は悪くなる一方で、敵は大分数を減らしつつあるが、まだ無傷で走る者も僅かだが見られた。 <br />　これではこちらは次第に力をなくしてゆくだけだ。 <br />　だが、思ったようにはことは進まない。 <br />　彼が思うようにうまく、敵と馬車とが離れる一瞬が訪れない。 <br />　彼は軽く歯がみして、次の瞬間、はっと両目を見開いた。 <br />　彼が覗く窓に並行して、一頭の馬が走っている。 <br />　馬上にはワインレッドの髪を揺らすリンバーソンの姿が見える。彼は身を乗り出した。 <br />　リンバーソンは、馬車へぐっと近づくとすぐにまたもとの位置に戻り、それからすうっと後ろへ下がる。 <br />　すぐにその姿が見えなくなって、彼は眉間にしわを寄せてリンバーソンが近づいてきたときをもう一度脳内に再生させた。 <br />　ワインレッドの髪。何かを訴える唇。伸ばされた腕。その先に―― <br />「そうか！」 <br />　リンバーソンの意図に思い至った彼は一番後方に近い窓へと移動して、はりつくようしてにそこにかがんだ。 <br />　その時、何かが倒れるような音とともに、ひたすら大きな衝撃が床を通じて足に響く。 <br />　彼は立ちあがって、慌てたせいでぶつけた頭をさすりながら、扉のすぐわきに張り付いてそうっと外を窺った。　瞬間、 <br />「・・・ソニア!?」 <br />　予想していた敵の姿はそこになく、先刻の彼のように飛び移り、着地に失敗したらしい彼女は扉から彼がでてくるなり気まずそうに立ち上がって、打ったらしい腰をさすった。 <br />「様子が気になったから、来てあげた」 <br />「別に必要とはしてないけど・・・大丈夫なの？タニシャの傍にいていなくても」 <br />「平気よ。タニシャは本当は私なんかよりずっと強いから。ねえそれより、どうなの？まだ合図は出来ないの？」 <br />「合図・・・ああそうだ。ソニアが突然来るから・・・」 <br />「私のせいにしないで。　誰よ、間抜けな顔して走ってきたのは」 <br />　先行して扉を開いたソニアに続いて中へ入る。荷や食糧でごった返す狭い空間で、ソニアは迷わず先ほど彼が居た一番後方に近い窓によって、外を抜け目なく観察し始める。 <br />　その後ろに立って、低い天井に体をかがめた彼がソニアにリンバーソンの策を話した。 <br />「ふーん・・・煙幕とは、なんとも古風な手段ね」 <br />「それで助かるんだ。きっと、僕らさえ逃げ切れれば、後はジクさんたちがどうにかしてくれるはず」 <br />　先ほどの趣旨の分からない行動。彼は、手に握るものを見せたかったのだ。 <br />　一見ただの筒に見えるそれは、火をつけると辺り一面に煙を巻き起こす煙筒だ。 <br />「リンバーソンさんはほら、あそこ。あのワインレッドの髪」 <br />「え、どれ？　みんな赤くて分からない」 <br />「他の人たちより明るくて薄めな赤だよ。他はすこし赤茶っぽいだろう？」 <br />　言いながら、ふと疑問を覚えた。 <br />　敵は――おそらくレイガラの人間と思われる盗賊は、皆一様に赤い髪をしていた。 <br />　レイガラ独自の文化か、あるいは赤染めが規律なのかもしれない。 <br />　　彼も、赤茶の髪なら今までにもナズナで何度か見かけたことがある。 <br />けれど、リンバーソンの髪色は、彼らのような赤茶ではなく明らかなワインレッドだった。薬品による痛みも感じられないから、地の色なのだろう。 <br />　そんな色はこの地方でもみたことがない。彼は何処の生まれなのだろう。 <br />「ああ、分かったあの人ね。凄い・・・綺麗な色」 <br />　どんどん深く引きずられていく思考は、ソニアの感嘆のため息に現実に引き戻された。 <br />　慌てて身を乗り出してリンバーソンからの合図を待つ。 <br />　と――リンバーソンが先行するように彼らのいる荷車の前へと出た。 <br />　手を大きく振る。合図だ。 <br />　彼は走った。 <br />　扉を開け、走る勢いでタニシャのいる荷台に跳び、幌をかき分けて御者台へ走る。 <br />　タニシャの呼ぶ声と、ソニアが何か叫ぶのが聞こえた。 <br />「タツナさん、行って――！」 <br />　彼の声とともに、馬車は全速力で走りだした。 <br />　後方で誰かの叫び声と、押し寄せるような灰色の煙が見える。 <br />　タツナの声と、御者台から見える青空。荷台から聞こえる歓声。 <br />「名無しさんっ」 <br />「アヴィ！」 <br />　タニシャとソニア、二人の声で我に返った彼は、御者台から荷台へ移って、固まっていた体から徐々に力を抜き、抜きすぎて床に座り込んだ。 <br />「・・・良かった、追ってきて、」 <br />　はっとして慌てて立ち上がり、幌をめくる。 <br />「――ない」 <br />「こっちもよ」 <br />　後ろを確認したソニアが笑う。 <br />　タニシャも安心したように笑って、と思えばすぐに血相をかえて御者台へ駆けていく。 <br />「タツナ！」 <br />　タニシャの声、なだめるタツナの困ったようなため息。 <br />　ゆっくり息を吸い、吐いて、彼はソニアと目を合わせた。 <br />「うまくいった」 <br />「うん」 <br />　二人同時に幌に駆け寄って、はためく幌を持ち上げてめいっぱいの青空を眺める。 <br />　と、その時、視界にふと明るいワインレッドが表れて――リンバーソンが彼らに手を振った。 <br />「リンバーソンさん！」 <br />「ジクさんについて行けって言われたんだ。創魔術師なら居場所を見つけてくれるからって」 <br />「ジクさんたちは、・・・大丈夫でしょうか」 <br />「大丈夫だよ、きっと。皆強いから。　ああ、そういえばタツナさんは・・・」 <br />　言って前へ行こうとするリンバーソンを、慌ててソニアが止めた。 <br />「今は駄目っ」 <br />　ポカンとした顔で振り返ったリンバーソンに、これまた訳がわからないと言った顔の名無しの彼。 <br />　ソニアは二人の視線を浴びて、 <br />「もう、天然記念物がもう一人増えちゃったじゃない！」 <br />　不機嫌な顔でそっぽを向いた。 <br /><br /><br />　やがて陽は傾き、馬車は林の中を通ってしばらくして、漸くその足をとめた。 <br />「今夜は野宿になるなあ・・・」 <br />　馬車から下りて、タニシャに腕の治療を受けながらタツナが呟くと、ソニアが誰より早くその言葉に反応して動きを止めた。 <br />「他の人たちのこと、迎えにいかないの？」 <br />　てっきり前のように野宿にたいして難癖をつけると思い込んでいた名無しの彼が、驚いてソニアを見る。 <br />　彼女は真剣に残してきた人たちを心配しているようだった。 <br />「ああ。タニシャの話だと、けが人はいても命にかかわる怪我はないらしいし、幸運にも死者は出なかった。彼らも今日はひとところに集まって休むはずだし、その大体の位置は予め決めてある。俺たちが今しなければならないのは、正確なジクさんたちの位置の確認。タニシャ、やれるな？」 <br />　落ち着き払った様子で話すタツナの隣で、タニシャが不安げにうつむく。 <br />「私・・・いままで、こんなに広い範囲を声で場所を特定するなんてしたことなかったから・・・出来るかどうか」 <br />「出来るかわからないときは、やってみればいいのよ。そうしたら答えが分かるから」 <br />　ソニアがタニシャを励ますように笑って、枯れ木を踏む音を立てて荷台に消えた。 <br />　すぐにまた姿を現して、その手には地図が握られている。 <br />「お願いタニシャ」 <br />「・・・はい」 <br />　タニシャの青い瞳が揺らぎ、虚無に支配されるのが分かる。 <br />　何かを辿るように手を伸ばし、空気を混ぜるような動作。 <br />　沈黙が広がった。 <br />　と、タニシャの目に意志が浮かぶ。手を膝に乗せ、顔をあげた途端、ふらと横に体が傾いだ。 <br />「・・・っと」 <br />　素早くタツナが彼女を抱きかかえ、そのまま馬車へと歩く。 <br />　彼は片手で毛布をかき集めると、そっとタニシャにかけて戻ってきた。 <br />「力の使い過ぎらしい。すぐに寝たよ。場所は聞いたから、大丈夫」 <br />　言って彼がソニアの持ってきた地図のある一点を迷いなく指す。 <br />「ジクさん達がいるのはここだ」 <br />「嘘」 <br />　初めに声を上げたのはソニア。続いて名無しの彼が、僅かに目を開いた。 <br />「だって・・・そこは」 <br />「アルムハーデ。ナズナの最果て、レイガラの本拠地――変ですタツナさん。俺たちとの作戦じゃあひと気のない場所って・・・ありすぎですよねえここ」 <br />　リンバーソンが、場に似合わない呑気さで頭をかいた。 <br /><br /><br />　アルムハーデへは明朝、日の出とともに出発することになった。 <br />　タツナは火の番をすると言って外に出て、リンバーソンは呑気に大丈夫だと笑っていたが、目は笑っていない。ソニアはといえば、隣で一人寝息を立てている。タニシャは昼間の疲労であれから眠ったままだった。 <br />　幌の隙間から顔をのぞかせると、星がいくつも瞬いて、余計に頭が冴えてきた。 <br />　一秒一秒過ぎていく時間の中で、眠気は一向に起きず、彼が寝付いたのは、出発に合わせて周りが起き出す数刻前――それも漸くの眠りは一瞬だった。 <br />　近くで誰かが動いていた。 <br />　人影は立ちあがって、静かに馬車を降りる。 <br />　小さな足音、ゆっくりと目を開けて隣を見ると、そこにいるはずのソニアがいない。 <br />　出て行ったのは彼女のようだった。 <br />　緩慢な動作で起き上がり、周りを起こさないよう細心の注意を払って外へ出た。 <br />　彼女の姿はなく、馬車に寄り掛かるようにしてタツナが眠っている。 <br />　リンバーソンはその横で体があちこち悲鳴を上げ出しそうな格好で眠っていて、その横を多少の心配をこめて窺いながら通りすぎた。 <br />　林の奥深くの、昨晩もソニアと水汲みに出かけた川を目指す。 <br />　水音がする。 <br />　それと誰かの――歌のような、泣き声のような、そんな音。 <br />　誘われるように林を抜けて、辿りついた。 <br />　そこにはやっぱり淡い黄色の髪を濡らして裸足で水辺を歩くソニアの姿がある。 <br />　月明かりに照らされて、さらさら流れる水の音。ちゃぷ、と響くソニアの足音。 <br />　水面が輝いて、彼女の周りだけが別世界のような、なんだか取り残された気がした。 <br />「ソニア」 <br />　さらさら。 <br />　川の流れる音とともに彼女へ声をかけた。 <br />　振り向いた彼女は、流れる水のように静かに瞬き一つして、それから何も言わない。ただ黙ってそこに座った。 <br />　その横に歩いて行って座る。何だろう。何かが違う、そう思った。 <br />「ソニアも眠れないの？　最近眠ってばかりだったから、仕方ないとはおもうけど」 <br />　あえてふざけるように軽く言って、やっぱり何かが違うと彼は思った。 <br />　違う。今の彼女は何か、違う。 <br />「寒くない？　裸足なんかで歩いてたら風邪ひくよ。壊れてはいるけど、今は一応雪も降る冬だ」 <br />　ソニアは何も言わない。その手がすっと動いたのが見えて、自然彼女の動作に目がいった。 <br />　ソニアは右の足首に巻いた包帯に触れて、徐にそれをとりはじめる。 <br />　いつもはブーツで隠れているそれは、ソニアの白い足に自然にまきついていたが、さらさらと水のように地面についてそれが蛇のようにとぐろを巻くのを見て、それが随分念入りにまいてあることに気づいた。 <br />「私が前に、野宿は絶対に嫌って、言ったじゃない？」 <br />　ここに来て初めて聞いたソニアの声は、それまで聞いた彼女の声とは少し違って、それは何だか何かに祈りを捧げるような、他の誰に言うでもない呟きのようだった。 <br />「光るのよ。月明かりに、これが」 <br />　言ってソニアは力任せに残っていた包帯をとると、足首を水面にさらして、月の光を受けた。 <br />　月は雲にさっと隠れてしまって今は暗い。けれど一瞬、彼女の足に刻まれた傷のような――何で斬ったのか分からない何らかの模様に見えるそれが、周囲の皮膚をひきつらせて、赤く赤く、月明かりに光ったのが見えた。 <br />「それは・・・一体」 <br />　呟いたその時、雲が風に吹かれて静かに月を水辺に映し出した。 <br />　やはり、光っている。 <br />　それは眩しいとかそういうものではけしてなく、ただぼんやりと淡い光を作り出す。 <br />　ソニアはそれをきっと睨みつけて、両手で足首を掴んでその傷を月から覆い隠してしまった。 <br />「ブルッジアの家紋、とでも言ったらいいかしら。　あの男に連れられて屋敷に入ると、訳の分からないまま足を斬りつけられて、傷に何かを入れられた。液体は傷をすぐに固めて、消えないこれが残った」 <br />　声が震えと怒りを帯びる。 <br />　漸く彼女の声に戻ったと思ったが、これもまた少し違う。 <br />　聞いていると心のずっと奥が軋むような、心臓がずぶりと動くような、言いようのない恐怖が彼を支配した。 <br />「ブルッジアであることを、あの男が私の｢父｣であることを、私はこれを見るたびに思い出す。夜は嫌。いつ、誰にこれを見られるか分からない。いつだれに知られて、あの男が来るかわからない。 <br />逃げられない。いずれ誰かに見つかる。だからその前に――その前にきえなくちゃ」 <br />　この痛みは何だろう。この痛みは、恐怖は、なんだろう。 <br />「ねえアヴィ。早くきえなくちゃ。捕まっちゃう。あの男に囚われて・・・そしたら私もう、死ぬこともできない。消えることも。消えなきゃ、消えなきゃならないの。はやく、こんなところにいちゃだめなの。見つかっちゃうわたし、わたし」 <br />「ソニア」 <br />「私はやく消えなくちゃ、早く・・・ッ」 <br />「ソニア！」 <br />　ひどく荒れた声が出た。 <br />　こんなに焦って、こんなに弱弱しい彼女を見たのは初めてだった。 <br />　そしてもう一つ、ようやく自覚した痛みも、彼女も全部、こんなの、彼女と出会って一度もなかったことだった。 <br />　この言いようのない痛みと恐怖、そして怒り。それは―― <br />「そんなに、消えたいの・・・？」 <br />　さらさら。流れる水音が彼女の息を飲む音を静寂に返す。 <br />「そんなに、そんなに消えたいの？　そんなに苦しいの？」 <br />　孤独だ。この痛みは。孤独。不安。痛い。痛くて仕方がない。 <br />「僕らと一緒にいて、一度でも生きたいって思えなかった？　そんなに消えたい？　そんなに死にたいか」 <br />「死ぬんじゃない、消えるのよ。何も残らない。痛みも、何も。　これは解放よ。逃げられるの。痛みは消えるの！　ねえアヴィ。あなたは消えたくないの？」 <br />「僕と一緒にいた時間や、タニシャと一緒にいた時間。短いかもしれないけど、君の父親には敵わないって分かってるけど、そういう日々は、楽しくなかった・・・？　なんとも思わなかった・・・？」<br />　彼女への問いかけは、自分への問いかけでもあった。自然に言葉が溢れてこぼれる。答えは決まっていた。<br />「僕は楽しかった。だから僕は、いつの間にか迷ってた。生きてみようかって思ってた。 <br />ティラはいない。けど生きてるんだ。同じ空気、同じ空、おなじ地上。たとえ会えなくても、僕が消えたらティラとおなじ空は見れない。おなじ星を見て、おなじ地上を歩けない。ソニアもそんな風に、思えないかな」 <br />　痛みが増していく。 <br />　答えのないソニアの背中。背を向けて、それは拒絶の意味を成すだろうか。 <br />　居てはいけないだろうか。おなじことを思っていたからこそ共に在れたのだろうか。 <br />「多分僕はもう君と同じ気持ちは持っていない。消えたくない。生きていたい。ここにいたい！ <br />君が知ってる僕じゃない。もう、そんな僕はいらない・・・？」 <br />　何故ソニアと出会ったか。何故今こうして隣に在るか。 <br />　ソニアが求めていたのは自分じゃない。ただ同志を、同じく傷付いて、消えたがる人間を探していた。 <br />　同じものを求め、おなじ感覚を持ち、共に歩く。それだけだった。ただ消えたかった。 <br />　けれど今は違うのだ。友人として、ではいけないか。死ぬのがこわくては駄目か。 <br />　答えはやはりなくて、辺りの夜色が薄くなるころにリンバーソンが二人を捜しに来るまで、ソニアも彼も、黙ったままだった。 <br /><br /><br /><br />　アルムハーデはなかなかに物騒な街で、赤茶の髪を揺らし肩に大振りの剣をかついで歩く者や、いかにも悪人といった顔の者、中には女剣士もぼちぼちと見かける。 <br />　そのいずれも赤茶の髪をしていて、妙な違和感と不安に煽られながら、リンバーソンは彼より幾らか年下のソニアと名無しの少年を従えて、アルムハーデの門の前に立った。 <br />　タツナと魔術師の女は別のルートで行き、後で落ち合うことになっている。 <br />　時間までに、ジク達仲間を探さなければならない。 <br />「行こうか」 <br />　リンバーソンの声に従って、二人が歩きだした。 <br />　そこに会話はなく、微妙な沈黙と僅かな緊張感でリンバーソンンはうろたえる。 <br />　この二人は確か、とても仲が良かったように思っていたのだが・・・ <br />(喧嘩？　こんな時にされてもなあ・・・いや、変にはしゃがれるのも困るけど） <br />　一人おろおろと辺りを見回していると、前を行く名無しの少年が振り返って、リンバーソンの外套を鷲掴みにして顔を引きよせた。 <br />「リンバーソンさん。あまり観光客面しないほうが良いと思うんですけど」 <br />「ご、ごめん」 <br />　言葉使いとは裏腹に乱暴な行動に驚いて、思わず情けない声が出た。 <br />　名無しの彼は何もなかったように手を離すと俯いて、それきりまた沈黙が生じる。 <br />　リンバーソンは今度は叱られないようにあくまで自然を装いながらアルムハーデを見渡した。 <br />　どれも古い木をつかって出来た建物が並び、路地裏には怪しい道具を広げる者ややせ細った子供の姿も見てとれる。 <br />　表通りを歩いていた時には明るく活気あふれ、力に満ちていた感覚を覚えたが、裏に回るとどこか退廃的な空気が流れ、ナズナの街、ということに嫌でも考えがいく。 <br />　裏と表の激しい街には、決まって一人は上流の貴族が住まい土地を治め、下級の人間に容赦のない仕打ちばかりしているものなのだ。 <br />　リンバーソンはそういった貴族や王族が嫌いだった。 <br />　彼らもまたそうなのか、ソニアは砂色のローブの中で唇をきつく噛みしめて、名無しの少年は見ないようにしているのか下ばかり向いて歩いた。 <br />　何軒かの宿屋をめぐり、ジク達を捜したが、何処に行っても予め目印と決めてあった青い布をかけた窓が見当たらない。 <br />　商売をそこで行っていることや情報に富んだ者が人を招くときの合図のように布を窓につるすのはナズナ独自の文化である。 <br />　ジク達は商人でも情報屋でもないが、色で職業が区別されていて、青は「傭兵」を指す。 <br />　皆が一様に武器を持ち力を主とするアルムハーデでは皆が傭兵のような強さを持ちあわせていることだろうから恐らく、彼らを頼って来るものはいないだろう。仕事にならない場所で仕事を探しているという風に不思議に思われることはあっても、けして目立つことはない。<br />　リンバーソンは改めて、タツナの賢さに感嘆した。<br />　段々と時間が過ぎていき、焦りがリンバーソンの足を速める。<br />　産まれ持って呑気ではあるけども、母から遺伝した心配性はそれを上回って彼を支配している。<br />　再び表通りに出て、先ほどは右折した路を今度は左に折れた。<br />　途端に鮮やかな青が目に飛び込んできて、リンバーソンは慌てて目を見開いてそれをよく見た。<br />　ひときわ大きな看板には「宿屋パーシィ」の字。<br />　目に鮮やかな青はその二階の窓に掛けられていた。<br />「なんか・・・目立つよねここ。良いのかなあ。昨日の盗賊がレイガラかもしれないのに、よりにも寄っててその本拠地でこんな目立つ布かけて・・・」<br />　呟いて首をかしげたリンバーソンの横をすりぬけて、ソニアが扉をくぐる。<br />　その後に続いて少年、リンバーソンと中へ進んだ。<br />「いらっしゃい！」<br />　主人らしき恰幅のいい腹をした女性が声を張り上げて彼らを招いた。<br />「あんたら兄弟？　皆して外套なんか着て、ああ、さては旅芸人か何かかい？　ここで稼ぐのは無理だよ、やめといた方がいい。アルムハーデには赤の妖精が居るから。ああでもナキシの街でなら」<br />　流れる水のように続く女主人の言葉に圧倒されてか、ソニアも名無しの少年も彼女を見上げて何も言わない。<br />「あ、いえ違うんです。俺達はちょっと・・・ここに青い布がかけられてるのがみえて、仕事の依頼に」<br />　リンバーソンは前に進み出て、赤茶の髪に白いエプロンが映える女主人の溢れるような言葉を遮った。<br />　途端にそれまで上機嫌だった彼女がああ、あの人たち・・・と眉根を寄せる。<br />「やめといた方がいいんじゃない？　怪我してる人とか結構いたから、戦力としてはいまいちだし、ちゃんとしたアルムハーデの傭兵を紹介してもらいなよ。あたし、良い人たち知ってるけど？」<br />「あー・・・とりあえず、こちらの目で判断してから、もしかしたらお願いするかもしれません」<br />　一応女主人の機嫌を損ねないための言葉で彼女の話を終わらせて、二階のつきあたりだという部屋へ向かおうとした時だ。<br />「パーシィおばさんッ」<br />　元気な声とともに、ソニアと同じような年頃の少女が扉を乱暴に開けて入ってくる。<br />　彼女はよほど急いできたのか高い位置で結った赤茶の髪をひどく乱れさせて、パーシィに走り寄るとその柔らかそうな体を抱きしめてきゃあきゃあと喜んだ。<br />「何だい、シィ。どうかしたの？」<br />「あたし、キジクの連中から物品奪ってやったんだ。そしたら思いのほか良いもの貰っちゃってさ。それとねえ・・・へへ、いい噂があるんだけど・・・」<br />「客がいるんだ。その口とっとと閉じて乱れた髪直しなさい」<br />　少女は今気づいた、という顔でリンバーソンや二人を見て、ふっとその目を細めた。<br />「ああ、ホント。あんたらここ泊まるの？たっかいよぉ止めときな。故郷に帰る金全部ぶんどられた客なんざ見飽きたよあたし」<br />「シィ。いい加減そのホラしか吹かない口どうにかしたらどうだい」<br />「だってーごめん、楽しいじゃん？」<br />　軽く舌を出して詫びる彼女はいかにも年相応の少女だが、先ほど聞いた言葉にはおおよそ少女には似つかわしくない不穏な符号が窺える。<br />　いち早くここを出た方が賢明だと判断して、素早く階段をあがった。<br />　家鳴りのする古い廊下を進み、突き当たりの部屋の戸を予め決められたリズムで叩く。<br />　すぐに戸が開いて、ジクと他の仲間たちの姿が見えた。<br />「良かった、無事で。タツナさんが街の東の外れで待ってます。すぐ動けますか？」<br />「二刻も前から準備はできている。行くぞ」<br />　ジクが先陣を切って階下へ出た。<br />　続いて仲間たち数人とリンバーソン達三人が階下へ降りると、むさくるしいような空気に赤茶髪の少女が顔をしかめているのがまず見てとれた。<br />「ああ、きめちゃったの？　さては金がないとかか。それならあたしが取り成してもよかったのに」<br />「いえ。知人の紹介なんで、断りにくくってですね・・・」<br />　隣に立って囁いた女主人に同じく適当なことを囁いて、リンバーソンは女主人に声をかけて宿を出た。<br />「あの子・・・」<br />　いつの間にか隣に立ったソニアが呟くのが聞こえる。<br />「ああ、あのシィって子・・・おそらく、盗賊か何かの家に生まれたんだろうな。君と同じくらいの年齢だったのに」<br />「キジクって、言った。それって王族専門の・・・」<br />「言うな」<br />「え？」<br />「今は駄目だ。後で、馬車に戻ってから話そう」<br />「・・・分かった」<br />　今はことを荒立てても仕方ない。どうにもできない。<br />　ただ黙って歩いて、考えるのはそれからだ。<br />　リンバーソンは、軽く唇を噛んで傷を負った仲間を気遣いながら歩いた。<br /><br /><br /><br /><br />　アルムハーデ東の外れ。彼らの後を追ってみると、やはり馬車から知った顔の女と男が出て傭兵だという傷を負った彼らを馬車へと乗せた。<br />　宿に来た三人も、無言で深くかぶっていたフードをとる。<br />　その場の全員の顔を見て、一人、漸く見つけた。<br />　やはり。やはりそうだった。<br />「良いもの見ーっけ」<br />　嘲るような笑みが少女の顔に広がって、吹きすさぶ風が彼女の高く結った髪を躍らせた。 ]]>
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<dc:subject>小説（・・・？）</dc:subject>
<dc:date>2009-10-25T12:32:01+09:00</dc:date>
<dc:creator>　　采奈</dc:creator>
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